プロフィール
フィリップ・ハルスマン(Philippe Halsman、1906-1979)は、リガ(当時ロシア帝国、後にラトビア)で生まれたユダヤ系のアメリカ人ポートレート写真家です。彼の両親は、父モルデューク(マックス)・ハルスマンが歯科医、母イタ・グリントゥシュが小学校の校長を務めていました。彼はドレスデンで電気工学を学びましたが、1928年にオーストリアで父親殺害の容疑をかけられました。ユダヤ人知識人たちの支援を受け、2年後に釈放されました。釈放後、フランスに渡り、ファッション雑誌『ヴォーグ』に写真を提供するようになり、一流のポートレート写真家としての地位を確立しました。その後、第二次世界大戦の影響でアメリカに移住し、ニューヨークで活躍しました。
業績と実績
ハルスマンの業績は、アメリカでの成功に始まります。彼の写真は『ライフ』誌の表紙を101回も飾り、その中でも特に有名なのはモデルのコンスタンス・フォードを撮影した「Victory Red」リップスティックの広告キャンペーンです。また、サルバドール・ダリとのコラボレーションも特筆すべき点であり、彼らの共作である『Dali’s Mustache』は36種類のダリの口ひげを特徴としています。さらに、ハルスマンの写真集『Philippe Halsman’s Jump Book』では、ジャンプするセレブリティたちの写真が多数掲載されており、「ジャンポロジー」という独自の写真技法を確立しました。彼の写真は、ウィンストン・チャーチルやアルバート・アインシュタイン、マリリン・モンローなど、時代を代表する人物を捉えています。
専門知識とスキル
ハルスマンは、写真撮影において独自の技術とスタイルを確立しました。彼の写真には、直截的なアプローチ、不思議な技術、追加された異常な要素、欠落した特徴、複合的な特徴、そして文字通りまたは象形的な方法という六つのルールが反映されています。例えば、アインシュタインの悲しげな表情を捉えた写真や、ダリの作品『Dalí Atomicus』に見られる浮遊感のある構図は、彼の創造力と技術の結晶です。また、コメディアンたちをジャンプさせて撮影することで、彼らの本質を引き出す手法を編み出しました。これらの手法は、写真芸術における新しい表現方法として多くの写真家に影響を与えました。
おすすめの写真集
Dali’s Mustache
- 特徴:
『Dali’s Mustache』は、シュルレアリストのサルバドール・ダリと実験的写真家フィリップ・ハルスマンの驚異的なコラボレーションの結晶です。彼らは30年以上にわたり友人であり、プロフェッショナルなパートナーでもありました。本書は、短い質問に対するダリのユーモラスな回答と、それに対応するハルスマンの白黒写真で構成されています。写真は意図的に不条理であり、笑いを誘うものとなっています。初版の裏表紙には「警告!この本はばかばかしい」という注意書きが添えられていたほどです。 - 見どころ:
本書の見どころは、ダリの風変わりな回答とハルスマンの創造的な写真の組み合わせです。例えば、「サルバドール、あなたの秘密を発見した気がします。あなたは狂っているのでは?」という質問に対して、ダリが「この本を買った人よりも確かに正気だ」と答えた場面が挙げられます。このようなやり取りが本書の随所に見られ、二人のユーモアと創造力を楽しむことができます。また、ダリの象徴的な口ひげをテーマにした36種類の写真は、彼の奇抜なキャラクターを見事に捉えており、写真芸術の新しい可能性を感じさせます。
Philippe Halsman: Astonish Me!
- 特徴:
『Astonish Me!』は、世界的に有名な写真家フィリップ・ハルスマン(1906-1979)の作品を網羅した大規模な回顧集です。サルバドール・ダリの独特な口ひげや、ホワイトハウスでジャンプするリチャード・ニクソン、グレース・ケリーの美しい横顔など、彼の手がけたアイコニックな写真の数々が収められています。この本では、パリのアヴァンギャルドなギャラリー「ラ・プレイヤード」での初期作品から、マリリン・モンローの美しいポートレートや『ライフ』誌の表紙を飾った100枚以上の写真、さらにダンサーや映画スター、ミュージシャンなどの芸術シーンの著名人の写真まで、多岐にわたる彼の作品が紹介されています。 - 見どころ:
本書の見どころは、ハルスマンのユニークな写真スタイルとその多様性にあります。彼の「ジャンポロジー」コンセプトを生んだ、有名人たちがジャンプする瞬間を捉えた写真シリーズは、特に注目に値します。また、サルバドール・ダリとの30年にわたるコラボレーションも見逃せません。ダリの口ひげだけをテーマにした一冊の本があるほど、二人の関係は深く、創造的でした。さらに、ハルスマンのテキストを通じて、彼の作品に込められた思想や技術的な工夫を理解することができ、ポートレート写真やセレブリティ写真、パフォーマンス写真に興味のある人々には特に必見の内容となっています。
The Frenchman
- 特徴:
『The Frenchman』は、1948年にニューヨークで写真家フィリップ・ハルスマン(1906-1979)がフランスのヴォードヴィル伝統からの映画スター、フェルナンデルと出会い、実現したユニークな写真実験を収録した本です。ハルスマンはフェルナンデルにアメリカについての質問をし、彼は表情だけでその質問に答えるという試みを行いました。これにより、コミカルで多彩な表情が引き出され、彼の俳優としての魅力が存分に発揮されています。質問とそれに対する表情が一体となり、読み手に笑いと驚きを提供する一冊です。 - 見どころ:
本書の見どころは、ハルスマンの巧みな質問とフェルナンデルの豊かな表情のコラボレーションによるユーモア溢れる内容です。「群衆の中でまだ女の子をつねるフランス人はいるのか?」という質問に対するフェルナンデルの茶目っ気たっぷりの笑顔や、「アメリカの野球に対する反応は?」という質問に対する困惑した表情など、各ページで彼の多彩な表情演技が楽しめます。また、言葉ではなく表情だけで感情や反応を伝えるという試みは、写真芸術の新しい可能性を感じさせます。コミュニケーションの本質や表情の持つ力を再認識させる、笑いと驚きに満ちた一冊です。
影響と貢献
フィリップ・ハルスマンの影響力は、写真界全体に及びます。彼は、独自の「ジャンポロジー」スタイルを通じて、ポートレート写真に新しい視点をもたらしました。また、サルバドール・ダリとの長年にわたるコラボレーションを通じて、シュルレアリスムと写真の融合を実現しました。ハルスマンの作品は、他の写真家や芸術家に大きな影響を与え、ジャン・コクトーやフランソワ・トリュフォー、アルフレッド・ヒッチコックなど、多くの著名人とのコラボレーションも行いました。さらに、彼はアメリカ雑誌写真家協会の初代会長を務め、写真界の発展に貢献しました。彼の作品は、今日でも多くの人々にインスピレーションを与え続けています。