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時代を映したレンズ
桑原甲子雄(くわばら・きねお、1913年 – 2007年)は、東京の下谷車坂町出身の写真家、写真評論家、そして編集者です。幼少期からの友人である濱谷浩の影響で写真撮影を始め、1934年にはアマチュア写真家として活動を開始しました。主に上野や浅草を題材にした彼の作品は、昭和初期の東京の日常を生き生きと捉えています。
写真界の推薦作家
桑原は1930年代、『アサヒカメラ』や『フォトタイムス』等の写真雑誌で多くの入選を果たし、1937年には『カメラアート』の第1回推薦作家となりました。この時期には木村伊兵衛による「桑原甲子雄論」も発表され、アマチュア写真家としての地位を不動のものにしました。
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アマチュアの域を超えて
桑原の写真技術は、単なる趣味の範囲を超え、プロ顔負けの技術と感性を持ち合わせていました。特にライカを用いた作品は、その精緻な描写力で高く評価されています。また、戦前に満州を撮影した経験や、戦後のアルス『カメラ』編集長としての業績は、彼の多岐にわたる才能を示しています。
おすすめの写真集
東京下町1930
- 特徴:
『東京下町1930』は、桑原甲子雄による昭和戦前の東京下町を捉えた記念碑的な写真集です。157ページにわたり、下谷、浅草、上野をはじめとする東京の庶民生活の営みが収められており、当時の人々の生活や街の雰囲気を今に伝えます。特に、桑原が敏感に感じ取った時代の風圧と、その中で生きる人々の日常が、この作品を通じて浮き彫りになります。桑原自身の生まれ育った下谷区車坂町の記憶とともに、1930年代の東京下町のリアリティが、細やかなフィルムの一コマ一コマに宿っています。 - 見どころ:
この写真集の中で、特に注目すべきは「下町幻影」「娯楽の殿堂」「水辺の風景」などのセクションです。昭和12年に始まる日中戦争へと続く時代背景の中で、東京の人々がどのように日々を過ごし、どのように街と関わっていたのかが細密に記録されています。また、桑原甲子雄の写真には、時代の変化に伴う郷愁や物悲しさが色濃く反映されており、視る者に深い感銘を与えます。『東京下町1930』は、ただの歴史的記録に留まらず、戦前の東京の「モダン」を感じさせる作品集として、その見どころは計り知れません。
物語昭和写真史
- 特徴:
『物語昭和写真史』は、1930年代から1980年代にかけての日本の写真界と社会を、桑原甲子雄自身の実体験をもとに綴った回顧記です。写真誌の編集者、写真家、そして下町の生活者としての多面的な視点から昭和時代の写真文化を振り返ります。未収録だった著作や未発表作を含む豊富な内容で、桑原さんの豊かな経験と昭和の写真史を深く掘り下げています。また、写真40点が収録されており、テキストと合わせて当時の写真界の様子や世相を生き生きと伝えます。 - 見どころ:
本書の見どころは、桑原甲子雄が直接関わった昭和の写真界のエピソードや、彼自身が切り取った写真作品による時代の証言です。特に、「わが実感的戦後写真史」「カメラ雑誌とともに20年」といったセクションでは、写真を通じて昭和の変遷を体験できる貴重な記録が満載。森山大道が帯文で述べるように、桑原のしなやかなスタンスから発せられるメッセージは、後世にも大きな影響を与えています。昭和の写真史を知る上で欠かせない一冊と言えるでしょう。
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写真評論と新人育成への献身
桑原は写真作品の制作だけでなく、写真評論や新人育成にも力を注ぎました。土門拳や木村伊兵衛を月例写真の選者に起用し、東松照明や川田喜久治など、後の写真界を担う若手の発掘に貢献。荒木経惟など、彼のもとで育った写真家は数知れず、桑原甲子雄の遺した足跡は、今もなお日本の写真文化に大きな影響を与え続けています。
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