横山松三郎、写真と洋画の架橋者
横山松三郎(1838-1884)は、幕末から明治にかけて活躍した写真家兼洋画家。択捉島出身で、箱館で育ち、写真と洋画の技術を独学で学んだ。外国人から洋画・写真術を学び、日本初の空中写真を撮影するなど、その生涯は冒険に満ちていた。
文化財の撮影から空中写真まで
横山松三郎は、明治6年に自身が運営する写真館「通天楼」に洋画塾を設け、この場所を芸術と技術の融合の場として活用しました。ここでは、亀井至一や亀井竹二郎、本田忠保といった後の時代に名を残す芸術家たちがその技術を磨いたのです。横山は、漆紙写真や光沢写真などの新しい写真技術を開発し、それらを通じて写真芸術の可能性を広げました。
1876年には、更なる学びを求めて陸軍士官学校の教官となり、フランス人教官アベル・ゲリノーから石版法や墨写真法を学びました。この経験は、横山にとって新たな技術との出会いであり、彼の技術的な視野を大きく広げることとなりました。特に、1877年には電気版写真を完成させるという偉業を成し遂げ、ゴム印画やカーボン印画、サイアノタイプなど、当時日本ではほぼ未知の欧州発の先進的な写真技法を国内に紹介しました。これらの技法は、写真の表現力を大きく高めるものであり、横山のこれらの取り組みは、日本の写真技術の発展に大きな影響を与えました。
横山松三郎の活動は、単に新しい技術を導入しただけではなく、それを用いて文化財の撮影や空中写真の撮影といった、当時としては革新的な試みに挑戦したことにも意義があります。彼の手によって撮影された文化財の写真は、貴重な歴史的資料として今日まで大切に保存されています。また、日本初の空中写真の撮影は、写真技術だけでなく、視点や表現の幅を大きく広げる一歩となりました。
おすすめの写真集
通天楼日記: 横山松三郎と明治初期の写真・洋画・印刷
- 特徴:「通天楼日記」は、明治初期の多才な芸術家、横山松三郎の日々の記録を集めた書籍です。この本は、彼が運営した写真館兼私塾「通天楼」での生活、教育、創作活動に関する貴重な手記、履歴書、弟子たちの草稿を収録しています。日本の写真、洋画、印刷技術の発展における横山の役割とその時代の文化的背景を理解する上で欠かせない資料です。
- 見どころ:横山松三郎が直接関わった「旧江戸城写真帖」や「壬申検査関係写真」といった作品は、今日でも文化財として高く評価されています。この書籍を通じて、彼の仕事の背後にある思考プロセス、技術的試行錯誤、そして彼が育てた弟子たちとの交流が垣間見えます。また、日本の近代化とともに進化した写真・洋画・印刷の技術を、横山松三郎という一人の芸術家の視点から追体験することができる点も大きな魅力です。
後進の育成と文化財保護への貢献
横山は、通天楼を拠点に多くの後進を育成し、日本の写真・洋画技術の発展に大きく寄与した。また、彼が撮影した文化財の写真は、後世にその価値を伝える重要な資料となり、文化財保護の分野でも大きな足跡を残している。
横山松三郎の人生は、技術の習得と実践、後進の指導、文化財の記録に費やされた。彼の業績は、日本の写真史だけでなく、洋画史や文化財保護の分野においても、非常に重要な位置を占めている。