モホリ=ナジ・ラースローの足跡
モホリ=ナジ・ラースロー(Moholy-Nagy László、1895-1946)はハンガリー生まれの写真家、画家、タイポグラファー、そして革新的な美術教育家。第一次世界大戦後、前衛雑誌への寄稿を経て、1923年にはバウハウスの教授として招聘されます。彼の教育と芸術表現は、写真、建築、工芸、絵画といった幅広い分野に及びました。
業績と実績:モホリ=ナジの多岐にわたる貢献
バウハウス在籍中、モホリ=ナジは写真やタイポグラフィを教育プログラムに積極的に取り入れ、『絵画・写真・映画』の著作を通じて美術界に大きな影響を与えました。1928年にバウハウスを離れた後もベルリンでデザインスタジオを開設し、ナチスの脅威から逃れて1937年にアメリカに渡りシカゴにニューバウハウスを設立しました。この学校では、バウハウスの理念を基に、デザインや写真に関する革新的な教育が行われました。ニューバウハウスでは、特に写真分野における教育が目覚ましい成果を挙げ、初期はモホリ=ナジ自身およびバウハウスの前衛写真の傾向を継承しながら、さまざまな傾向へと変化し現在に至っています。
モホリ=ナジはニューバウハウスでの教育を通じて、写真のみならず、グラフィックデザイン、産業デザイン、環境デザインなど、デザインのあらゆる面で革新的なアプローチを取り入れました。彼の指導のもと、生徒たちは実験的なプロジェクトに取り組み、写真に限らず多岐にわたる芸術作品を生み出しました。このような教育方針は、学生たちが創造的思考を発展させ、デザインにおける新たな視点を獲得することを促しました。
また、ニューバウハウスは、モホリ=ナジの積極的な努力により、バウハウスの教育理念をアメリカに根付かせることに成功しました。彼の貢献により、アメリカにおけるモダンデザイン教育の発展に大きな影響を与え、イリノイ工科大学をはじめとする多くの教育機関にその精神が受け継がれています。モホリ=ナジのニューバウハウスにおける活動は、デザイン教育における里程標として、現代においても高く評価されています。
専門知識とスキル:革新的な教育手法
モホリ=ナジは、バウハウス叢書の一冊『絵画・写真・映画』で、写真の構成主義的な可能性を探求しました。彼の教育では、視覚芸術の名著として知られる『動きのなかの視覚』で示されたように、社会的および心理学的な要素を組み合わせた、写真を含む芸術作品の創造を目指しました。
おすすめの写真集
絵画・写真・映画 (新装版 バウハウス叢書)
- 特徴:バウハウス創設100周年を記念して刊行された「新装版バウハウス叢書」の一冊である『絵画・写真・映画』は、バウハウスの理論的支柱であるモホリ=ナジ・ラースローによる画期的な著作です。「我々は世界を全く別の目で見ている」という視点から、絵画と、新しい視覚造形メディアである写真や映画との関係を深く論じています。この著作は、視覚的造形の新たな形式の成立に技術の発展がいかに寄与するかを探究し、視覚芸術における新しい地平を切り開いたことで特筆されます。
- 見どころ:この新装版では、フォトグラム、タイプフォト、フォトプラスティークなど、カメラを用いた、またはカメラなしで制作された実験的な光造形作品を多数収録しています。これらの作品は、モホリ=ナジが提唱する新しい造形手段としての光、空間、動力学の可能性を視覚化しており、読者に対して人間の視覚器官では捉えられない現実を、カメラがどのように補うことができるのか、その確信を与えてくれます。この著作を通じて、視覚芸術の未来に対するモホリ=ナジの深い洞察と革新的なアプローチを体験することができます。
モホリ=ナジの遺産
モホリ=ナジの教育と芸術は、アンリ・カルティエ=ブレッソンやエルンスト・B・ハースなどの写真家に影響を与えました。彼の死後も、ニューバウハウスおよびシカゴデザイン研究所を通じて、彼の革新的な教育理念はイリノイ工科大学に引き継がれ、石元泰博を含む多くの日本人学生にも影響を及ぼしました。モホリ=ナジの名前を冠したハンガリーの国立モホリ=ナジ芸術大学は、彼の遺産を今に伝えています。