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松江泰治の世界観に迫る:地表と模型で都市を捉える視線

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プロフィール:都市と地形をデジタルに記録する写真家、松江泰治

松江泰治(まつえたいじ、1963年〜、東京都生まれ)は、都市や地形をまるで「地球の表面のサンプル」として記録し続ける、日本を代表する写真家の一人です。東京大学理学部地理学科を卒業した異色の経歴を持ち、1990年代から世界各地を旅しながら風景を俯瞰し、独自の視点で撮影を行ってきました。彼の作品は、常に真正面から順光で撮られ、地平線や影を排除した「フラット」な画面が特徴。都市コードをタイトルにしたシリーズ『CC』や、空撮風の視点で都市模型を撮影する『makieta』シリーズなど、斬新なアプローチで注目を集めています。森山大道からの影響も語られており、写真界の常識に挑む姿勢は、コンセプチュアルアートにも通じています。

業績と実績:『makieta』と『CC』に見る現代都市の視覚表現

松江の代表作『CC』シリーズは、都市を高所から真正面に、影や地平線を排除して撮影するという厳格なルールに基づいています。東京や大阪、札幌など、日本国内外の都市が被写体となり、そこには一切の情緒がなく、情報の密度のみが前面化されます。一方で『makieta』は都市模型をリアルに撮影し、あたかも空撮かのように見せる作品群。特に2022年に東京都写真美術館とTARO NASUギャラリーで開催された「マキエタCC」展では、この2つのシリーズを交差させ、観る者に「誰が」「どこから」見ているのかという視点の問いを投げかけました。彼の作品は、ポール・ヴィリリオやナダールのように、視覚と権力の関係に踏み込む現代写真として高く評価されています。

専門知識とスキル:地理学的視点とデジタル技術の融合

松江泰治の写真制作は、旅と徹底したリサーチ、そして高度なデジタル処理から成り立っています。撮影は全工程のわずか10%程度で、残りの90%は調査と画像処理に費やされるという徹底ぶり。特に焦点合成(フォーカススタッキング)や画像スケーリングといった技術を駆使して、あらゆる被写体を隅々まで明瞭に写し出します。都市模型を被写体とする『makieta』シリーズでは、低光量下での精密なピント合わせや、模型の構造を強調するマクロ的視点が求められるなど、都市写真とは異なる撮影技法も要求されます。また、最近では「動く写真」と呼ばれる映像作品にも取り組み、静止画を超えた視覚表現を模索しています。

おすすめの写真集

gazetteerCC

  • 特徴:都市と自然、地表を記録する視覚の集大成
    『gazetteerCC』は、松江泰治の代表作「gazetteer」と「CC」から262点を厳選収録した、圧倒的なスケールの集大成写真集です。地上の高所から真正面に撮影され、影や地平線を排除した構図は、被写体すべてを等価に浮かび上がらせます。肉眼では捉えられない細部まで情報を定着させる“絶対ピント”の美学が貫かれた、写真表現の極致ともいえる一冊です。
  • 見どころ:写真の「見ること」への挑戦と情報の深み
    この写真集の最大の魅力は、「見尽くすことができない」ほどの情報量と精密さにあります。都市から砂漠、森林、山脈まで、広大な地表の断片を捉えたイメージは、見る者の視線を空間的な深さではなく、画面内の情報密度へと誘導します。観るという行為そのものを問い直し、写真における“過剰”の意味を再考させる、現代写真の思考を深める傑作です。

LIM

  • 特徴:死の風景を「都市」として捉える革新的視点
    『LIM』は、松江泰治が世界中で撮影してきた墓地をテーマに構成された異色の写真集です。墓地を単なる宗教的・感情的な場ではなく、都市機能の一端として捉え、従来の風景写真とは一線を画すアプローチを展開。国境や信仰の違いを超えて、フラットな構図で「死の空間」を記号化する松江ならではの視点が光ります。
  • 見どころ:空撮から目線まで、墓地を読み解く多様な視角
    本書には、空撮や俯瞰視点のほか、現地で対峙し撮影した臨場感ある視点も収録されており、多層的な見方が可能です。整然と並ぶ日本の墓地と、荒々しくも温かみある南米の墓地との対比など、文化的背景の違いが鮮やかに浮かび上がります。寄稿・倉石信乃による批評文「ネクロポリスの現在」も、深い考察を促す一編です。

cell

  • 特徴:無人の風景から人間の「最小単位」へ
    写真集『cell』では、松江泰治が初めて「人間」をテーマに据え、偶然写り込んだ人物を大判で切り取るという新境地に挑戦しています。都市や風景からトリミングされた人々の姿は、まるで風景に浮かぶ「細胞」のよう。『CC』や『JP-』といったシリーズで知られる無機質な構図から一転し、人間味ある「最小単位=cell」を描き出す、松江流のユーモアと批評性が詰まった作品です。
  • 見どころ:拡大された偶然が紡ぐ新たな写真体験
    本作の魅力は、極小の被写体を大胆に拡大した構成にあります。一見すると赤い点に過ぎなかったものが、実は赤い絨毯の上で寝そべる人物であったり、屋上で日光浴する姿だったりと、驚きに満ちた発見が連続します。偶然の中に宿る日常の断片が、色彩や構図によってシュールな「非日常」へと変貌し、「写真を見る楽しさ」を新たに感じさせてくれます。

影響と貢献:写真界における唯一無二の視点とその波紋

松江の作品は、視覚のロジスティクス(知覚の構造)や「神の眼」とも言える全能の視点を問い直す、哲学的な問いを内包しています。彼の手法はベッヒャー夫妻やアンドレアス・グルスキーの系譜に連なるように見えて、むしろ空間と時間を並列化することで、写真がもつ意味の拡張を試みています。出版社では青幻舎から刊行された『LIM』が注目され、都市と墓地というテーマを重ねることで、新たな視座を提示しています。また、学芸員の伊藤貴弘や角奈緒子との共同展示プランニングは、インスタレーションとしての可能性も引き出し、現代美術との接点も深めています。松江泰治は、写真というメディアの限界と可能性を押し広げ続ける、まさに「写真家 おすすめ」の最前線に立つ作家です。

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この記事を書いた人

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