プロフィール
立木義浩(たつき よしひろ 1937年 – )は、徳島県生まれの日本を代表する写真家です。1960年代から広告、ファッション、エディトリアルの分野で活躍し、雑誌や広告界でその才能を発揮してきました。1958年にアドセンター入社後、1969年にフリーランスとして独立。彼の著名な作品「舌出し天使」は1965年に『カメラ毎日』で56ページにわたり掲載され、写真家としての地位を確立しました。広告、雑誌、出版など幅広い分野で活動し、1965年の第9回日本写真批評家協会新人賞、1997年の日本写真協会賞年度賞、2010年の日本写真協会賞作家賞、2014年には文化庁長官表彰を受賞しています。立木義浩は、写真界においてその影響力と独自性で長年にわたり際立った存在感を放ち続けています。
多才な視点から紡ぐ、時代を超える光景
1969年に独立して以来、広告、雑誌、出版の世界で多彩な写真を撮り続け、メディアをまたぐ活躍を見せています。彼の手がける作品は、テレビやラジオ、CM出演など、写真家の枠を越えた才能の発露として知られています。
立木の作品群の中で特筆すべきは、『イヴたち』(1970)、『私生活 加賀まりこ』(1971)、『舌出し天使』(2018)などの写真集です。さらに、近年の『動機なき写真』(2016)、『七つの真実にまさるひとつのきれいな嘘を』(2023)といったスナップショットの傑作集も彼の多様性を示しています。
立木は「自分が撮るものが『作品』とは考えず、後世に残そうとも思わず、好きなものを好きなように撮る」と述べており(『東寺』集英社、1998年)、この哲学は彼の芸術家としてのスタンスを反映しています。彼の作品は、写真という媒体の可能性を拡張し、日本の写真界に不変の影響を与え続けています。立木義浩の作品は、時代を超越し、進化し続ける魅力を持ち続けています。
時代を彩る交友:立木義浩とその仲間たち
立木義浩は、そのキャリアを通じて多くの著名人と深い関係を築いてきました。彼の交友関係は、芸術、文化、そしてエンターテイメントの世界にまたがり、多彩な人物たちとの協働によって、記憶に残る作品を生み出しています。
その一例が、女優の加賀まりこと共にパリで撮影した写真集『私生活 加賀まりこ』です。また、歌手の山口百恵が自叙伝「蒼い時」を立木の事務所で執筆した際、彼の撮影したカットは話題を集め、山口百恵のカットも上野の森美術館での写真展「時代」で披露されました。女優の夏目雅子が見せた路上での微笑みや、俳優松田優作の「探偵物語」の撮影中の姿も、立木のレンズを通して捉えられました。
アートディレクター堀内誠一とは、アドセンター時代からの長い付き合いがあります。堀内はマガジンハウスで「an・an」や「POPEYE」「BRUTUS」を立ち上げた人物で、立木と共にクリエイティブな世界を築いてきました。また、VIVOという写真家集団のメンバーである、細江英公、奈良原一高、佐藤明、川田喜久治とも交流があり、石元泰博、林忠彦、鋤田正義とも親交を深めています。
イラストレーターの和田誠、劇作家の寺山修司、推理作家の都筑道夫と雑誌ページを共に作り上げるなど、立木義浩の交友関係は、彼の作品の多様性と豊かさを象徴しています。これらの交流は、立木が時代を通じて様々な分野の人々と協力し、それぞれのジャンルを超えたクリエイティブな作品を生み出す原動力となっています。
おすすめの写真集
七つの真実にまさるひとつのきれいな嘘を
- 特徴:『七つの真実にまさるひとつのきれいな嘘を』は、立木義浩の最新スナップ写真集で、コロナ禍の時期も含む近年に撮りためられた94点の作品が掲載されています。この写真集のユニークな特徴は、立木を知る6人の編者が1,000枚の写真から選んだ16ページ分の写真を集約し、独自のタイトル付けを行ったことです。編者たちは10代から50代に及び、高校生から専門古書店の店主、写真誌代表、デザイナーまで幅広い職業を持ち、それぞれが自由な視点で写真をセレクトしました。この多様な編集手法は立木にとっても初めての試みであり、写真集作成の新しいアプローチを提示しています。
- 見どころ:この写真集の見どころは、異なる背景を持つ編者たちが選んだ写真によって、立木の作品に新たな次元が加わっている点です。それぞれのページには、モノクロとカラーの写真が自由に配置され、編者が付けたタイトルが作品に深みを与えています。興味深いのは、6人の編者が同じ写真の中から選んだにも関わらず、重複した写真が1枚だけであり、それぞれのページを見ると、まるで異なる写真家の作品のように多様なテイストが楽しめます。これは、写真集を通して「写真を選ぶことの面白さ」を感じられる点でもあり、立木義浩の写真芸術を多角的に楽しむことができる貴重な機会を提供しています。編者には中嶋琉平、近田拓郎、飯塚ヒデミ、黒﨑由衣、TEAM OBAKE、町口 景などが名を連ねており、インタビューは川田洋平が担当。デザインと編集も町口 景、川田洋平によるもので、写真愛好家にとって必見の一冊です。
動機なき写真―立木義浩写真集
- 特徴:『動機なき写真 – Just Because』は、立木義浩による、動機や理由から独立した自由な意志で撮られた写真集です。2002年の「風の写心気」と2010年の「スナップショット – 日常茶飯事」の連載作品に加え、新作写真と「写真の話」を収録。B5変形サイズで、128ページのボリュームがあります。この写真集は、無差別的な選択の自由というコンセプトを具現化しており、立木義浩の現在の写真芸術を凝縮しています。
- 見どころ:この写真集の最大の見どころは、日常の瞬間を捉えたスナップショットにあります。長年にわたる連載作品から選ばれた写真は、日々の生活の中に潜む美しさや驚きを捉えています。加えられた新作写真と「写真の話」は、立木の写真に対する深い洞察と創造性を示しており、読者は写真を通じて立木義浩の世界観に触れることができます。写真集全体を通じて、日常の中の非日常を感じ取ることができるでしょう。
舌出し天使
- 特徴:「舌出し天使」は、立木義浩が27歳の時に『カメラ毎日』1965年4月号に掲載され、彼のデビュー作となりました。この写真集は56ページにわたり掲載され、当時の編集長山岸章二氏の判断により実現しました。写真構成は和田誠氏、詩は寺山修司氏、解説は草森紳一氏によるもので、錚々たるメンバーが参加しています。今回の写真集には、当時掲載された62点に加え、未収録のカット24点も収められています。
- 見どころ:「舌出し天使」の魅力は、写真が文学や絵画の影響を受けず、象徴や構図の魅惑から一歩踏み出した点にあります。草森紳一氏の解説にもあるように、この作品は記録性や報道性といった写真の本質から一線を画し、センスの放棄によって新しい表現に到達しています。1人の少女の肉体と心理のメカニズムの遭遇を連続して記録し、それをドキュメントとして捉える立木のアプローチは、当時としては革新的であり、彼の才能と視点の独自性を示しています。
写真の旅の終着点:立木義浩の遺産
立木義浩の写真芸術の旅は、1965年のデビュー作「舌出し天使」から始まり、現在に至るまで、時代を超えた魅力で私たちを魅了し続けています。彼の作品は、単なる記録や報道を超えた、深い感情や思想を映し出す芸術作品です。立木の写真には、彼の独特な視点と、日常の一瞬を捉えた鮮烈なイメージが満載されています。彼の写真集「七つの真実にまさるひとつのきれいな嘘を」や「動機なき写真」は、立木の多様な表現の幅を示しており、読むたびに新たな発見があります。立木義浩の写真は、私たちに夢と現実の境界を探る旅をさせてくれる貴重な宝物です。彼の写真が今後も引き続き、幅広い人々にインスピレーションを与えていくことを心から願いながら、このブログを締めくくります。