はじめに
林忠彦賞は、戦後の日本写真界に大きな貢献を果たした写真家・林忠彦(はやし ただひこ)の多彩な業績を記念して創設された写真賞です。この賞は1991年(平成3年)に周南市と公益財団法人周南市文化振興財団によって設立されました。林忠彦の名前を冠したこの賞は、日本の写真文化の発展とアマチュア写真家の育成を目的としており、多くの写真家たちにとって憧れの賞となっています。
林忠彦賞を受賞した著名な写真家たち
林忠彦賞は、多くの著名な写真家たちが受賞してきました。彼らの作品は、日本写真文化の発展に大きく寄与しており、後世に語り継がれる名作となっています。
第1回(1992年)〜第9回(2000年)
回 | 受賞者 | 受賞作品 | 選考委員 |
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第1回 (1992年度) | 後藤 正治 | 西城〜シルクロード (写真集) | |
第2回 (1993年度) | 捧 武 (ささげ たけし) | 田園の微笑 (写真集) | |
第3回 (1994年度) | 木村 仲久 | 静岡の民家 (写真集) | |
第3回 (1994年度) | 田崎 力 | たかちほ (写真集) | |
第4回 (1995年度) | 長 洋弘 (ちょう ようひろ) | 帰らなかった日本兵 (著書) | |
第5回 (1996年度) | 岡田 満 | 追いつめられたブナ原生林の輝き (写真集) | |
第6回 (1997年度) | 井上 冬彦 | サバンナが輝く瞬間 (写真集) | |
第7回 (1998年度) | 井上 暖 | ぼくは、父さんのようになりたい (写真集) | |
第8回 (1999年度) | 清水 公代 | 天空の民 (写真集) | |
第9回 (2000年度) | 渡里 彰造 | Personal View〔視線の範囲〕 (写真集) |
第10回(2001年)〜第19回(2010年)
回 | 受賞者 | 受賞作品 | 選考委員 | 候補者 |
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第10回 (2001年度) | 竹林 喜由 | 塩の道 秋葉街道 (写真集) | ||
第11回 (2002年度) | 角田 和夫 | ニューヨーク地下鉄ストーリー (写真展) | ||
第12回 (2003年度) | 石川 博雄 | 静かな時への誘惑 (写真展) | ||
第13回 (2004年度) | 飯田 樹 | 海を見ていた ―房総の海岸物語― (写真集) | ||
第14回 (2005年度) | 中條 均紀 | 古志の里Ⅱ (写真集) | 青木 竹二郎 「兄弟」 石澤 修次 「東京ジェネレーション」 幸田 光子 「異形空間」 寒川 真由美 「じいちゃんの田んぼ」 鈴木 サトシ 「生きることのはざまで」 高橋 淳子 「東京近郊農家」 長岡 徹 「浅間山『千変万化』1973-2003」 梁 丞佑 「新宿」 若松 布美子 「少年少女~韓国編~」 | |
第15回 (2006年度) | 田中 弘子 | 繭の輝き (写真展・雑誌掲載) | 井澤 雄治 「平成の富士」 大橋 紀雄 「知恩院の風光」 岡田 啓子 「Non Exit Scenes 出口のない光景」 金山 正男 「越の国の空の下」 新間 陽子 「子どもたちの視線」 鈴木 勉 「メコンの民―ラオスの人々と暮らし」 高木 サダ子 「知床・羅臼」 中山 陽 「九州往還」 山口 雄朗 「村に息づく人たち」 | |
第16回 (2007年度) | 後藤 俊夫 | 黄土高原の村/満蒙開拓の村 (写真集) | 石垣 守 「大地に生きる」 小栗 昌子「百年のひまわり」 門田 卓也「病棟日記」 曽我 定昭「幽玄 伊豆天城 情念の森」 田代 一倫 「浮憂世代」 中野 建吉 「ぬくいぜんか」 東 茂子 「VietnamⅡ 平和村の人々、そして子供たち」 梁 丞佑 「君はあっちがわ僕はこっちがわ」 梁 丞佑 「だるまさんが転んだ」 | |
第17回 (2008年度) | 小林 勝 | 長崎フォトランダム 長崎ば撮ってさらき、半世紀 (写真集) | 岩永 豊 「有明海賛歌」 大谷 憲裕「天使たちの季節」 䋆屋 良太郎「illumination」 清水 早苗 「Tidak apa-apa ―心が一つになったインドネシア」 高木 サダ子「匂い立つ大地」 角田 新八 「上州 吾妻の郷」 藤田 修一 「永遠の瞬間」 星野 俊光 「東京湾岸のねこたち」 若松 布美子「双子」 | |
第18回 (2009年度) | 大西 成明 | ロマンティック・リハビリテーション ~夢みる力・20の物語~ (写真集) | 浅田 政志 「浅田家」 上地 典之 「新世界肖像」 大塚 幸彦 「うみのいえ」 奥山 淳志「明日をつくる人」 桜井 秀「AmericanWest 西へ向かう」 笹岡 啓子 「PARK CITY」 中島 拓也 「牡丹雪」 船尾 修 「カミサマホトケサマ」 梁 丞佑 「LOST CHILD」 | |
第19回 (2010年度) | 小栗 昌子 | トオヌップ (写真展・写真集・雑誌掲載) | 太田 真三「新ニッポン百景」 北島 敬三 「1975-1991コザ/東京/ニューヨーク/東欧/ソ連」 小柴 一良 「水俣・MINAMATA「水俣よサヨウナラ、コンニチハ」」 菅原 一剛「DUST MY BROOM」 鶴崎 燃 「海を渡って」 長倉 洋海 「人間交路―シルクロード」 百瀬 俊哉 「インド照覧」 矢口 清貴 「魂は廻る―マブイハメグル」 吉村 和敏 「Sense of Japan」 |
第20回(2011年)〜第29回(2020年)
回 | 受賞者 | 受賞作品 | 選考委員 | 候補者 |
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第20回 (2011年度) | 山内 道雄 | 基隆 (写真集・写真展・掲載記事) | 羽幹 昌弘 「とうもろこしの人間たち GUATEMALA 1981-2008」 絵門 仁 「殺風景PARTⅡ」 尾上 太一 「北前船 鰊海道3000キロ」 公文 健太郎 「BANEPA-邂逅の街-」 柴田 秀一郎 「バス停留所」 竹田 武史 「茶馬古道の旅 中国のティーロードを訪ねて(写真集) 茶馬古道をゆく(写真展)」 ハービー・山口「1970年、二十歳の憧憬」 桃井 和馬 「すべての生命にであえてよかった」 | |
第21回 (2012年度) | 佐藤 信太郎 | 東京|天空樹 Risen in the East (写真集) | 蔵 真墨 「蔵のお伊勢参り」 古賀 絵里子「浅草善哉」 小林 伸一郎「島波 瀬戸内景」 菅原 一剛 あたらしいみち」 牧野 智晃 「Daydream」 松原 豊 「村の記憶」 吉村 和敏 「Shinshu」 | |
第22回 (2013年度) | 小林 紀晴 | 遠くから来た舟 (写真展) | 有元 伸也 「ariphoto2012 vol.3」 石川 武志 「MINAMATA NOTE1971~2012 私とユージン・スミスと水俣」 尾仲 浩二 「Matatabi」 梶井 照陰 「HARBIN 2009-2012」 亀山 亮 「AFRIKA WAR JOURNAL」 田代 一倫「はまゆりの頃に」 百々 新 「対岸」 野村 恵子 「Soul Blue 此岸の日々」 村越 としや「大きな石とオオカミ」 渡部 さとる「da.gasita(ダ.ガシタ)」 | |
第23回 (2014年度) | 笹岡 啓子 | Remembrance (写真冊子) | 今岡 昌子 「トポフィリア 九州力の原像へ」 今村 拓馬 「日本の子ども」 蔵 真墨 「氷見」 下平 竜矢 「星霜連関」 田代 一倫 「はまゆりの頃に 三陸、福島 2011~2013年」 地蔵ゆかり 「LIVING AT KILLING FIELDS キリングフィールドに生きて」 林 典子 「キルギスの誘拐結婚」 原 芳市 「常世の虫」 吉永 マサユキ「I’m sorry」 | |
第24回 (2015年度) | 中藤 毅彦 | STREET RAMBLER (写真集) | 浅井 寛司 「標高4000Mの祈り」 荒井 玲子 「このような 残暑。」 小川 康博 「島語り」 広川 泰士 「STILL CRAZY Nuclear power as seen in Japanese landscapes」 藤岡 亜弥 「Life Studies」 松谷 友美 「六花」 渡部 さとる「prana」 | |
第25回 (2016年度) | 船尾 修 | フィリピン残留日本人 (写真集) | 大石 芳野(写真家) 笠原 美智子 (東京都写真美術館) 河野 和典 (日本写真協会理事) 細江 英公 有田 順一 (周南市美術博物館館長) | 池本 喜巳 「近世店屋考」 古賀 絵里子「一山」 清水 哲朗 「New Type」 百々 武「草葉の陰で眠る獣」 豊里 友行 「オキナワンブルー 抗う海と集魂の歌」 古見 きゅう「TRUK LAGOON トラック諸島 閉じ込められた記憶」 堀 忠三 「老農 北上高地の生 40年の記録」 村上 仁一 「雲隠れ温泉行」 |
第26回 (2017年度) | 有元 伸也 | TOKYO CIRCULATION (写真集・写真展) | 大石 芳野(写真家) 笠原 美智子 (東京都写真美術館) 河野 和典 (日本カメラ社編集顧問) 細江 英公 有田 順一 (周南市美術博物館館長) | 蔵 真墨「Men are Beautiful」 筋野 健太「長春 2006-2015」 鶴崎 燃「海を渡って」 名越 啓介「Familia 保見団地」 林 典子「ヤズディの祈り」 藤岡 亜弥「川はゆく」 |
第27回 (2018年度) | 藤岡 亜弥 | 川はゆく (写真集) | 大石 芳野(写真家) 笠原 美智子 (東京都写真美術館) 河野 和典 (日本カメラ社編集顧問) 細江 英公 有田 順一 (周南市美術博物館館長) | 飯島 幸永「暖流」 紀 成道「Touch the forest, touched by the forest.」 小池 英文「瀬戸内家族」 竹谷 出 「にほんのかけら」 野村 佐紀子「Ango」 菱田 雄介「border|korea」 星 玄人「WHISTLE/口笛」 |
第28回 (2019年度) | 野村 恵子 | 「Otari-Pristine Peaks 山霊の庭」 | 大石 芳野(写真家) 笠原 美智子 (東京都写真美術館) 河野 和典 (日本カメラ社編集顧問) 細江 英公 有田 順一 (周南市美術博物館館長) | 池田 勉「潜伏と祈り」 柿崎 真子「アオノニマス 廻」 佐藤 岳彦「密怪生命」 鈴木 賢武「沼の婆さんの言い伝え」 初沢 亜利「隣人、それから。38度線の北」 溝縁 真子「KOTOHIRA」 山本 雅紀「我が家」 吉永 友愛「キリシタンの里―祈りの外海」 |
第29回 (2020年度) | 笠木 絵津子 | 私の知らない母 (写真集) | 大石 芳野(写真家) 笠原 美智子 (東京都写真美術館) 河野 和典 (日本カメラ社編集顧問) 細江 英公 有田 順一 (周南市美術博物館館長) | 安楽寺 えみ「Balloon Position」 紀 成道 「MOTHER」 公文 健太郎「暦川」 齋藤 陽道 「感動、」 田川 梨絵 「私の手の中に花を摘む」 藤原 昇平 「東京オアシス」 元田 敬三 「『轟』TODOROKI」 |
第30回(2022年)〜第39回(2030年)
回 | 受賞者 | 受賞作品 | 選考委員 | 候補者 |
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第30回 (2022年度) | 初沢 亜利 | 東京 二〇二〇、二〇二一。 (写真集) | 大石 芳野(写真家) 笠原 美智子 (石橋財団アーティゾン美術館副館長) 河野 和典 (編集者) 小林 紀晴 有田 順一 (周南市美術博物館館長) | 石川 竜一「いのちのうちがわ」 岩波 友紀「One last hug 命を捜す」 宇井 眞紀子 「伝え守る アイヌ三世代の物語」 兼子 裕代 「APPEARANCE」 キセキ ミチコ「A complicated city」 蔵 真墨「香港 ひざし まなざし」 古賀 絵里子 「BELL」 田川 基成 「見果てぬ海」 本山 周平 「日本 2010-2020」 山元 彩香 「We are Made of Grass, Soil, Trees, and Flowers」 Ryu Ika「The Second Seeing」 |
第31回 (2023年度) | 新田 樹 | Sakhalin (写真集・写真展) | 大石 芳野(写真家) 笠原 美智子 (石橋財団アーティゾン美術館副館長) 河野 和典 (編集者) 小林 紀晴 有田 順一 (周南市美術博物館館長) | エバレット・ケネディ・ブラウン「Umui」 王 露 「Frozen are the Winds of Time」 キセキ ミチコ「VOICE 香港2019」 高橋 智史 「男鹿ー受け継がれしものたちー」 高橋 万里子 「スーベニア」 鶴巻 育子「芝生のイルカ」 水島 大介 「おじいちゃんの写真集」 |
第32回 (2024年度) | 奥山 淳志 | BENZO ESQUISSES 1920-2012 (写真集) | 大石 芳野(写真家) 笠原 美智子 (長野県立美術館館長) 河野 和典 (編集者) 小林 紀晴 有田 順一 (周南市美術博物館館長) | 安掛 正仁「朧眼風土記」 金川 晋吾 「長い間」 菅野 純 「Planet Fukushima」 藤本 巧「朝鮮通信使 誠信の交わり 全弐巻」 淵上 裕太 「上野公園」 松村 和彦 「心の糸」 三島 正 「Flat」 水島 貴大 「環島回憶錄 Memoirs of Huandao」 山下 晃伸 「夜光性静物観察記」 梁 丞佑 「荷物」 |
第33回 (2025年度) | ||||
第34回 (2026年度) | ||||
第35回 (2027年度) | ||||
第36回 (2028年度) | ||||
第37回 (2029年度) | ||||
第38回 (2030年度) | ||||
第39回 (2031年度) |
林忠彦の遺志を継ぐ賞
林忠彦は、木村伊兵衛や土門拳、渡辺義雄などの著名な写真家たちとともに日本写真家協会の設立に尽力し、昭和28年には二科会に写真部を創設しました。彼の生涯を通じて、全国のアマチュア写真家の資質向上に全力を注ぎ続けました。このような林忠彦の遺志を生かし、アマチュア写真家の振興を目的として設立されたのが林忠彦賞です。
写真表現の多様化とプロ作家の参加
デジタル技術の進歩により、写真の表現形態はますます多様化しています。第12回からは新しい写真表現を目指す作家の参入を推進する取り組みが行われました。さらに、第18回からは対象をプロ作家にも広げることで、アマチュアだけでなく、より幅広い層の写真家を奨励しています。こうした取り組みは、時代とともに変化する写真文化を反映し、未来を切り開く写真家の発掘を目指しています。
賞の贈呈と展示
林忠彦賞の選考は、写真界各層の関係者約250名からの推薦作品と公募による自薦作品の中から行われます。選考委員会は、大石芳野、笠原美智子、河野和典、小林紀晴、有田順一らの5名で構成され、広い視野を持って候補作品を厳選します。
受賞者にはブロンズ像(笹戸千津子作「爽」)および賞金100万円が贈られます。選考発表は毎年年3月上旬に行われ、受賞者には通知が送られます。また、授賞式と受賞記念写真展は山口県周南市で開催されます。受賞作品は銀塩ペーパー・小全紙サイズで再制作され、周南市美術博物館に永久保存されます。
林忠彦賞の募集要項
- 資格
国内に居住するアマチュア、プロ、年齢、性別、国籍を問いません。誰でも応募することができます。 - テーマ
テーマは自由で、1月1日から12月31日の間に写真展、写真集、雑誌、公募等の表現媒体ですでに発表された作品が対象です。 - 対象作品
受賞記念写真展を開催する関係上、同一テーマで35枚以上から70枚程度までの写真で構成された作品が対象となります。
まとめ
林忠彦賞は、日本の写真文化の発展とアマチュア写真家の育成を目的として設立された重要な写真賞です。デジタル化時代に対応し、プロ作家にも門戸を開くことで、幅広い写真表現を奨励しています。受賞者たちは林忠彦の精神を継承しながら、未来の写真文化を切り開いていくことでしょう。興味のある方は、ぜひ応募を検討してみてください。