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柴田敏雄『日本典型』:日本のランドスケープを見つめる写真家

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プロフィール:絵画から写真へ、風景との対話を求めて

柴田敏雄(しばた・としお、1949年-)は、日本の風景写真を代表する写真家の一人です。東京藝術大学で油画を学んだ後、ベルギーのゲント市王立アカデミーで写真を専攻。写真を始めた当初は夜の風景を撮影し、光に浮かび上がる対象に惹かれました。しかし、1983年の帰国後、昼間の風景へと関心が移り、日本各地のダムや砂防堰堤などの人工構造物を撮影するようになります。彼の写真は、自然と人工の関係を独自の視点で切り取るものであり、社会的なメッセージを持ちながらも、造形的な美を追求する姿勢が特徴です。

また、柴田は絵画にも造詣が深く、セザンヌ(Paul Cézanne, 1839-1906)の遠近法や構成力に影響を受けています。彼の作品は、写真と絵画の境界を超えた表現を模索しており、写真家・鈴木理策(すずき・りさく)との対話を通じて、写真と美術の関係についても探究を続けています。

業績と実績:『日本典型』とNew Topographicsの影響

柴田敏雄の代表作『日本典型(Acceptable)』は、日本の風景における人工物の存在を鋭く捉えた写真集です。1992年に刊行され、第17回木村伊兵衛賞を受賞しました。本作では、日本各地のダムや擁壁、砂防堰堤などの土木構造物を冷静な視点で撮影し、それらの形やパターンを幾何学的に捉えています。彼の写真は、単なる記録ではなく、土木技術の美しさと、自然との相克を浮き彫りにするアートとして評価されました。

柴田の作品には、1975年にアメリカで開催された展覧会「New Topographics: Photographs of a Man-Altered Landscape」の影響が見て取れます。この展覧会では、工業施設や郊外の開発地といった「人間によって変容した風景」が客観的かつ構造的な視点で撮影され、従来の風景写真とは異なるアプローチが提示されました。柴田の写真もまた、日本における人工構造物を冷静に見つめ、土木技術の美しさと自然の対比を映し出す点で、この潮流と共鳴するものがあります。

その後、柴田は国内外で高い評価を受け、シカゴ現代美術館からコミッションワークの依頼を受けるなど、活動の場を広げます。彼の作品は東京都写真美術館、ヒューストン美術館、メトロポリタン美術館など、多くの美術館に収蔵されており、日本の風景写真を国際的なアートシーンへと押し上げる役割を果たしました。

専門知識とスキル:大型カメラと造形的アプローチ

柴田敏雄の撮影スタイルの特徴は、大判カメラ(4×5インチや8×10インチ)を用いた精密な描写です。パンフォーカスで隅々までシャープに写る写真は、対象の形状を強調し、抽象的な要素を引き出します。このアプローチは、絵画的な構図の影響を受けたものであり、彼が学生時代に学んだセザンヌの遠近法や造形理論と深く関わっています。

また、撮影対象の選び方にも特徴があります。柴田は「偶然の出会い」を大切にしており、車で移動しながら適切な被写体を探します。彼自身が「車で移動する時間は、絵を描く時間と同じ」と述べているように、対象を見極めるプロセスの一環として撮影に臨んでいます。この手法は、被写体と写真家の距離感を独自のものとし、ランドスケープ写真の新たな可能性を切り開いています。

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影響と貢献:写真と絵画の間で拓かれた新たな地平

柴田敏雄は、写真を単なる記録の手段ではなく、造形的な美と概念的な探求の手段として発展させました。彼の写真は、ランドスケープにおける人工物と自然の関係を緻密に捉え、美術館での展示に適した大判プリントとして発表されることが多く、写真と絵画の境界を超えた表現を確立しています。

写真と絵画の関係性に焦点を当てた展覧会「写真と絵画―セザンヌより 柴田敏雄と鈴木理策」では、鈴木理策が「柴田さんのお仕事は、いわゆる写真の世界とは良い意味でズレていて、自分の世代にとってはとても重要な存在でした。そういう表現と出会えたからこそ、今日まで写真を続けてこれたと思っています」と語っています。柴田の作品は、写真が美術として成立する可能性を広げ、後続の写真家たちに大きな影響を与えてきたことがわかります。

また、柴田自身も「僕はいまだにタブローを目指しているところがあって、自分の写真は『絵画』だと思いたい節もあるんですよ」と述べており、写真と絵画の間にある新たな地平を探求し続けています。彼の写真は、社会や環境に対する批評的な視点を持ちながらも、純粋に視覚的な美しさを追求するものであり、その独自の立ち位置が、現代写真における重要な指標となっています。

柴田敏雄の写真は、私たちに「人工と自然の関係」や「写真とは何か?」という根本的な問いを投げかけます。彼の作品は、今後も写真界において重要な役割を果たし続けるでしょう。

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この記事を書いた人

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