多文化の交差点で
瀬戸正人(せと まさと、1953年12月10日生まれ)は、タイ王国ウドーンタニ市で生まれ、日本人の父とベトナム系タイ人の母のもと、異文化の交錯する環境で育ちました。1961年には福島県に移り住み、東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)で学び、その後、独立して多様な文化的背景を持つ写真家として活動を開始しました。
国際的な視点で捉える
瀬戸正人は、1978年に深瀬昌久のアシスタントとしてキャリアをスタートさせ、1987年には山内道雄と共にギャラリーPLACE Mを設立しました。1996年にはそのユニークな視点で写真界に新たな風を吹き込み、第21回木村伊兵衛写真賞を受賞。特に『Living Room, Tokyo 1989-1994』での国際色豊かな東京の一面を描き出しました。
記録と記憶の狭間で
瀬戸は、写真を「記録」と「記憶」の両方として捉え、アジアの多様な文化と人々の生活を緻密に記録してきました。東京ビジュアルアーツでの教育と、森山大道氏からの影響を受け、彼の技術と表現力は磨かれ、「Silent Mode」のようなシリーズでは、人間の多面性を捉える洗練された手法を見せています。
記憶の地図:東京都写真美術館写真展
瀬戸正人の写真展「記憶の地図」は、東京都写真美術館で開催され、彼の長年にわたるアジア各地での撮影活動を通じて得られた6つのテーマの作品が紹介されました。最初のセクション「Bangkok, Hanoi [1982-1987]」では、彼の生まれ故郷であるタイ・バンコクと母の親戚の住むベトナム・ハノイを訪れた際の作品が展示され、それぞれの都市の日常と文化が生き生きと捉えられています。次に「Living Room, Tokyo [1989-1994]」では、東京に移住してきた多国籍の住民の生活空間を描き、国際的な都市の多様性と個人の生活が織り交ぜられた風景が展開されます。
「Picnic [1995-2003]」では、東京の公園でのんびりと過ごす人々の姿を通じて、日常の中の穏やかな幸福感を表現しており、一見平和な風景の中にもほのかな哀愁を感じさせる作品群です。続く「Fukushima [1973-2016]」は、福島県の自然豊かな風景と、そこに生きる人々の日常を通じて、時間の経過とともに変化する地域の姿を深く掘り下げています。
最後に、「Binran [2004-2007]」は台湾のビンラン・スタンドを題材にしたシリーズで、夜のネオンライトに照らされた風景の中で、現代の孤独と隔絶感を映し出しています。そして「Silent Mode 2020[2019-2020]」は、人間の感情の不安定さや多重性を探求し、現代社会における個人の内面の複雑さを浮き彫りにしています。これらの作品群は、瀬戸正人が見つめるアジアという広大な舞台で繰り広げられる、人間とその環境との間の微妙な関係性を巧みに描いています。
おすすめの写真集
記憶の地図―瀬戸正人写真集
- 特徴:
「記憶の地図―瀬戸正人写真集」は、瀬戸正人がデビュー作『バンコク、ハノイ1982-1987』から最新作『Silent Mode 2020』に至るまでの写真を集めた図録です。この写真集は東京都写真美術館での展覧会「瀬戸正人 記憶の地図」を記念して制作されました。各時代の代表作を通じて、瀬戸がアジアの多様な表情をどのように捉えてきたかが紹介されており、彼の長いキャリアを通じての視覚的旅行を体験できます。 - 見どころ:
この写真集の見どころは、各セクションごとに異なる文化的背景を持つアジアの人々や風景が繊細に描かれている点にあります。特に「Bangkok, Hanoi [1982-1987]」では彼のルーツをたどる旅が、また「Living Room, Tokyo [1989-1994]」では東京に住む様々な国籍の人々の生活がリアルに表現されています。さらに、「Silent Mode 2020」では現代人の心理状態を深く掘り下げることで、観る者に新たな視点を提供します。各作品が持つ独自のテーマとメッセージ性は、写真が単なる記録を超えた「記憶」としての力を持つことを示しています。
binran
- 特徴:
写真集「binran」は、瀬戸正人が台湾で撮影したビンラン売りの女性たちの生活を描いた作品です。これらの写真は、電飾で煌々と照らされたガラスの箱の中で働く女性たちの強さと輝きを捉えています。瀬戸は彼女たちの日常と夜の営みを通じて、アジアの夜の独特な風景と女性たちの生の力強さを浮き彫りにしています。この写真集は、現実を超えた存在感を持つ作品として評価され、写真協会の年度賞を受賞しています。 - 見どころ:
「binran」の最大の見どころは、台湾のビンラン売りの女性たちが夜な夜な展開する生活の一端を捉えた点にあります。ネオンライトに浮かび上がる彼女たちの姿は、都市の夜景と融合し、視覚的にも非常に魅力的です。瀬戸正人はこれらの写真を通じて、ビンランという嗜好品がもたらす社会的、文化的な背景も探求しており、ビジュアルだけでなく、その背後にあるストーリーにも深く触れています。この写真集は、観る者に対して強烈な印象を与えること間違いなしです。
Cesium
- 特徴:セシウムと福島の記録
このブログは、2012年に福島第一原子力発電所を訪れた体験を基にしたものです。写真家として、フランスの通信社からの依頼で、フランスの環境大臣の視察に同行し、福島の現状を写真に収めました。この記事では、35kgのセシウムが福島県に降り注ぎ、チェルノブイリ事故の半分の量とされるこの重大な事実を背景に、その影響を受けた地域のリアルな光景を描写しています。 - 見どころ:目に見えない恐怖の可視化
この写真集の見どころは、目に見えない放射能の「恐怖」をどのように映像化しているかにあります。通常、放射性物質は肉眼では見ることができませんが、記事によると、作者は福島の自然の中で、それが残る山林や河川、田畑を深く探求し、セシウムの存在を感じさせる独特な写真を撮影しました。破壊された原子炉建屋や、穏やかながらも何かを物語る青々とした海の風景は、訪れた人々に深い印象を残すはずです。
アジアの顔を世界に
瀬戸正人の写真は、彼の生まれ故郷であるタイやベトナム、そして日本といった場所で撮影された作品群を通じて、地域の真実を浮き彫りにし、視覚文化に貢献しています。『Bangkok, Hanoi [1982-1987]』や『Fukushima [1973-2016]』のシリーズは、個人的な記憶と公共の記録が融合した独自の視点を提供し、多くの後進の写真家に影響を与え続けています。